Culthouse diaspora

風が辿りつかない場所

荻窪:丸長

先日は靴を買いに夜勤明けに表参道へ出向いた。駅から降りた瞬間に「オシャレだ!無理だ!」という気持ちでいっぱいになり、夜勤明けで疲れ切っていた心に更に深刻なダメージが加わったので、早急に回復措置を取る必要があった。そこで、俺のホームグラウンドである荻窪でラーメンを食うことにした。まあ深刻なダメージが無くてもラーメンは食べるけどな。

その日訪れたのは以前から訪れてみたかった丸長である。現在のようなつけ麺のスタイルを確立したのは東池袋大勝軒の故山岸一雄と言われているが、荻窪の丸長はそのルーツとなる店だとか。店の創業は1948年、もう既に70年近い。荻窪駅の南口から降りて歩くこと3分ほど。エアスポットのような場所に店はあった。

訪れたのは昼時だったこともあり、店外まで行列が伸びていた。特段急ぐ予定もないので行列に並ぶこと15分ほどで店内に入った。流石に何度か改装はされていると思うが、圧倒的な昭和スメルの漂う渋すぎる店内である。調理場では寡黙なご主人が黙々と調理を行い、奥さんと(恐らく)娘さんが会計や店内のあれこれの切り盛りを行っていた。人手に対していかんせん押し寄せる客の数が多過ぎるのだろう、回転はやはりそれほど良いとは言えなかったが、客もそこは皆分かっており、のんびりと構えている人間が多かったように思う。着席してから10分ほどで奥さんが先の客の分を片付けて注文を聞きに来てくれたので、この店の名物であるつけそば大盛(チャーシュー入り)を注文する。そこから更に待つこと10分ほどでご対面と相成った。

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見ての通り、なかなか素晴らしいボリュームである。早速麺をつゆに浸して食べてみると、むせそうになるほどの胡椒の辛味が舌と鼻を刺激する。カウンター席に座ったので店主が調理をするところが見えていたのだが、このつゆ、とんでもない量の胡椒が投入されていた気がする。あと、謎の白い粉も一緒に大量に投入されていたが、あれはつゆを美味しく感じさせるヤバい薬などでは勿論なく、普通に化調だろう。昭和のラーメンて勝手に薄ぼんやりした味だと思っていたフシがあるので、たぶんこの店もじんわりと美味しさが分かってくる系の味だろうと勝手に思い込んでいたが、とんでもない。その辺の自称濃厚つけ麺の濃厚さとか目じゃないくらい強烈なつけつゆに、比喩抜きでくらくらする。しかし、箸が止まらんのだ。大量の胡椒と、これまた主張の激しい酢の酸味と、カエシ醤油の甘辛さとが、全部一度に押し寄せてくる。刻みチャーシューにはしっかりと味がしみ込んでいるし、柔らかめに茹でられた後に水でしめられた麺はつるつるしており、完璧にこのつゆにマッチしている。夜勤明けの濃い味は意外と身体が受け付けないものだが、あっという間に完食していた。本当に美味しかった。寡黙だが人の良さそうな現在の店主は三代目にあたるらしいが、結構なご高齢に見えた。今後とも健やかであって頂きたい。

ちなみに、荻窪駅が開設されたのは明治24年だが、この丸長が出来た頃には荻窪駅には南口しかなかったらしい。表参道の浮ついた感じよりも、荻窪の昭和を微妙に引きずった雰囲気の方が性に合うことを改めて痛感した一杯だった。また行こう。