明けましておめでとうございます。
今年も年に一度のブログを更新する機会、年間ベストのアルバムを選出する時期がやってきた。気付けばゼロ年代が終わり、更に気付けばテン年代も終わってしまった。どうせ気付けば20年代も終わるのだろう。それはさて置き、今回は20作選んでみた。
20.IATT/Nomenclature
ジャンルとしての成熟から一定以上が経過すると近隣ジャンル同士を組み合わせたり、あるいは全くの異物を掛け合わせたり、といったことを行うバンドが出てくるが、この
フィラデルフィア出身のIATTもそういうバンドだ。彼らのキャリアのスタートは
メタルコアらしいのだが、
ブラックメタルのパーツを用いてBTBAMのようなことをやっており、それがまた非常にハマっている。
19.Netherbird/Into The Vast Uncharted
スウェーデンのMELODIC DEATH METALの5作目。雷鳴轟くSEをバックにギャー!というボーカルのシャウトと共に慟哭のメロディを奏でるギターが鳴り響き始める1曲目だけでもう1億点。"あの頃"のメロデスに何がしかを感じた人間なら間違いなく黒い血の涙を流して泣きながら笑いだす作品だと思うので、新年の初笑いにどうぞ。
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18.Slipknot/We Are Not Your Kind
TOOL/Fear Inoculum
「猛烈にハマってる人が同年代にいるけど、個人的にはそこまで思い入れのないバンド」の代表格がTOOLと、そしてこの
Slipknotだったりする。TOOLは前作から13年、すりっぺもなんだかんだで前作から5年経過してのアルバムリリースだったのだけれど、両者の作品を同タイミングくらいで聞いて感じたのは、キャリアを重ねたバンドの円熟味、時代を制したバンドとしての"格"そのものが音楽的な強さになるんだな、ということだった。
今からドハマりするには自意識が邪魔をするが、それでもやっぱり無視できないバンドだなってつくづく思った。
16.Counterparts/Nothing Left To Love
10月に来日も果たしたカナダの叙情系ハードコアの代表格の6作目。10曲33分の短い尺の中に、攻撃性と起伏に富んだリズムのうねり、そして彼らの最大の持ち味である叙情性をたっぷりと詰め込んだ快作。
15.Obsequiae/The Palms Of Sorrowed Kings
彼らの音楽的なジャンル名を言い表わす時に、"Medieval Metal"とか"Castle Metal"(
Castle of Paganではない)だとか呼ばれてて、中世メタルとか城メタルとか字面だけだと何の事だかさっぱり分からないのに、音を聴くと不思議と中世のヨーロッパの打ち棄てられた古城が浮かんでくる不思議。バンド自体は
ミネソタ州ミネアポリスの出身ではあるが。前作から一音鳴っただけで聴き手を異空間に引きずり込むような空間構築能力は更に増しており、荘厳で、不思議な酩酊感を聴き手に与える
サウンドは力を増している。
14.Dead to a Dying World/Elegy
黄昏時を感じる音楽、というものが好きだ。テキサス出身ネオクラストの7人組がリリースした3作目のフルアルバムは、叙情的なパートと、重苦しくも烈しい激情パートを行き来しつつ、やがて砂風が全てをさらっていくような寂寥感が支配していく。
大作志向と静寂パートによる間の多さが作品への没入感を妨げている、というレビューをどこぞかで目にしたけど、むしろ間が多いからこそが聴き手に夕暮れの情景を思い起こさせる一助になっていると私は感じる。
Possessed何と33年ぶりの復活作。来月でとうとうアラフォーになる私も、彼らが2作目出した頃にはまだ1歳だよ。当然リアルタイム世代ではない私がPossessedの存在を知ったのはThe Crownの"Possessed 13"のライナーノーツだった気がする。
さて置き、今全世界に溢れるろくでなしメタルの
オリジネーターの一つであるPossessedの新譜は、リズム隊こそ現代風にアップデートされているものの、ヤケクソみたいなリフとか、妙にヨレた感じのヴォーカルとか、恐らく世界中の俺たちやお前たちがPossessedに求めていたものに想像以上の形で応えている完璧な復活作だ。
12.Wilderun/Veil of Imagination
かつてシンフォニックメタルがあった。かつて
プログレッシブ
デスメタルがあった。かつてフォークメタルがあった。それらを"Epic"というキーワードの元に合体し、圧倒的な構築美とスケール感を与えて音に無限大の説得力を持たせた結果、極彩色のメタル絵巻は完成した。こういうメタルに遭遇した時にはガッツポーズをするのがメタルヘッズのマナーだ。ただ、巷で言われてるほど
Opethっぽいかなあ?ちと分からん。
11.Latitudes/Part Island
Opeth的という点でいけば、先に挙げたWilderunよりも、このイギリス出身のLatitudesの新作の方が個人的にはそれっぽい印象を受けた。Deliverance/Damnation期の
Opethをポストメタル/
シューゲイザーの文脈から解釈した感じ。全編を覆うメランコリックな空気感と迸る激情を、どこか淡々と紡いでいく。曇り空の冬の海を見ながら聞くときっと最高だと思うので、近くで海が見れる人は是非試してほしい。
10.Full of Hell/Weeping Choir
名は体を表す系の地獄ヴァイオレンスカルテットの4作目。今作もアルバムの頭からケツまでバンド名通りの地獄です。以上説明終わり。
10月のライブで来日した折に、夜の
青木ヶ原樹海をメンバー全員で訪れていたようだが、その翌月にバンの盗難に遭って機材を全部盗られてしまったらしく、ますますこのバンドのことが好きになってしまった。樹海から良くないものをお持ち帰りしてしまったのかねえ。
9.Schammasch/Hearts of No Light
スイスの
アヴァンギャルドブラックメタルの4作目。前作はディスク3枚組計100分という情報だけで心が折れて未聴だが、本作は呪術的な雰囲気といかがわしさをメタルの筋肉が支え、その上から
Joy Divisionのエッセンスをぶちまけた、実に底意地の悪い作品に仕上がっている。まあ、Vonのトリビュートとかに参加してたような連中ならね…。
8.フランシュシュ/ゾンビランドサガ フランシュシュ The Best
新曲はあるものの基本的に本編で流れた楽曲(円盤のおまけ)の再録ではあるし、
アニメ本編で聞いた時ほどの鮮烈さがあるわけではない。ないのだけれど、改めて聞き直すと元曲のポップスとしての強さを痛感せずにはいられないし、何より曲順で物語の
追体験が出来る構成になっているのがとかく心憎い。やっぱりフランシュシュは最高だし
ゾンビランドサガも最高のアニメだよ。
ただ、例のラップバトル回の曲だけは、映像抜きで聞くとやっぱり厳しい気持ちになってしまった。こればっかりはもうどうしようもない。
7.Borknagar/True North
Dimmu Borgirの日本での呼称が"ディム・ボルギル"に変わったことに未だに慣れないのだけれど、このBorknagarも"ボルクネイガー”という呼称が今日本でのオフィシャルであるらしい。その呼称を聞いて我々日本国民は超神ネイガー以外に何を想像することが出来るのだろうか?今まで通りボルクナガルではダメなのか?そもそもボルクナガルって呼んでるの俺以外にいたっけ?何も分からなくなってきた。
で、そんな超神ボルク
ネイガーの新作だが、前作のリリース後に2000年から在籍していたVintersorgが離脱、ディム・ボルギルでもお馴染みのICS Vortexがメインボーカルとなっている。前作Winter
Thriceは彼らの長いキャリアの中でも一つの到達点とも言える出来栄えだったが、今作は個々の楽曲の密度・熱量が全て前作を凌駕している。90年代から活動を続ける
ノルウェーの
ブラックメタル勢は、初期の頃からは大きく作風を変えるバンドが多い中で、Borknagarはその方向性を変えていない。というか正直どのアルバムを聴いても路線に大きな違いはないんだけど、それでもアルバムをリリースする毎に作品の質が高まっているのはもう素直に凄い。
血と肉が凝縮したようなゴリッゴリの
デスメタルでありながら、黒いうねり身を委ねてしまいたくなるような、ある種の親しみやすさが同居する音楽性は既に1stの時点で完成されていたのだけれども、本作はそこから更に曲展開を煮詰めつつ、
サイケデリックな雰囲気を増大させた結果、最早異次元の域に達した感のある作品に仕上がっている。
とは言え、ジャンル音楽から越境していくタイプの作品ではないと思うので、このアルバムに対しての大量のハイプが溢れ返っている状況はちょっとよく分からないし、少々うんざりしている人間は私含め少なくはなかろう。しかし同時に、これだけ注目が高まった今後どう転がっていくバンドなのか、そこにはやはり非常に興味がある。
初の外部プロデューサーを起用した作品となった本作は、いわゆる祝祭的なポストロックの風味が
LUNA SEA本来の音楽性と化学反応を起こした結果、これまでとは全然違うのに、
LUNA SEAらしさが圧倒的なスケール感で広がるとんでもない傑作となっている。30年のキャリアを経て尚、伝説のバンドがアップデートどころか進化し続けている、というのは本当に幸せなことなんじゃないか。
去年の7月くらいに放送された
NHKのSONGSで、
YOSHIKIが
LUNA SEAに対して「僕らの方が少しだけ先輩なんだけど、見習うべきところがたくさんある」と語ってて、本当にそうだぞ、という気持ちでいっぱいだったが、このアルバムを聴いた後はなんかもう一周回って悲しくなってしまった。
LUNA SEAにあって今の
X JAPANに欠けている何かを、このCROSSを聴いてしまうと意識せずにはいられないんだよな。
4.Deathspell Omega/The Furnaces of Palingenesia
ジロリアンがたくさんの二郎インスパイア系ラーメンを食べた後に、ふとした拍子に本家の
ラーメン二郎を良さを実感するのと同じように、たくさんのDsOフォロワーを聞いてきた我々も、本家のDeathspell Omegaを聴くと本家の良さを実感するものである、という例えを思い付いたんだけど、二郎はインスパイア系じゃなくとも店舗によって味も量も異なるしそれぞれの店舗毎に好みが分かれてたりもするから、この例えは全くの無効である。
なんのかんので彼らも既に20年以上のキャリアを重ねているバンドであり、音楽性も初期からするとかなり変化しているが、作品を重ねるごとにオカルティックな要素はどんどん薄まり、こと近作においてはメタル部分の肉と骨がどんどん剥き出しとなってきているように思う。そして、そのメタル部分こそが本家が凡百のフォロワーと一線を画す部分であり、たまらなく魅力的な部分でもあるのだということを、このアルバムを通じて改めて思い知らされた。
3.Ştiu Nu Ştiu/Sick Sad Love
スウェーデンは
ストックホルムを拠点とするサイケ/
ゴシックメタルバンドの3作目。2016年にリリースされた前作Fake Endは、その年の年間ベストの1位に選ぶ程に気に入った作品だったが、2020年現在もこのバンドについて言及している日本語の記事は未だに私の2016年の年間ベスト記事以外に存在しておらず、やったぜ!という気持ちでいっぱいなのだが、流石にもう少しリスナーが増えても良いバンドだと思い始めている。
前作が外側に向けて瘴気を拡散する作風だったのと比較すると、本作は内側にそれらが収縮していくような作風となっている。毒気と情念の渦巻くメロディは最早演歌のよう。そして何よりヴォーカルBillie Lindahlの表現力の豊かさよ。
※2020/5/14追記 Billie Lindahlは前作のレコーディングを最後に脱退し、本作はJessica Mengarelliがヴォーカルとなっています。ああ恥ずかしい。
前作ほどの即効性はないものの、今作も素晴らしいアルバムだ。だからみんなもっと注目してくれ。頼むから。
2.Devil Master/Satan Spits on Children of Light
アンダーグラウンドでその頭角を現し、RelapseからのリリースとなったDevil Masterの1stフルアルバム。パンク、D-Beat、
ブラックメタル、
スラッシュメタル、ゴス、サイケ、ガレージetcといった要素を一つの大鍋に乱雑にぶち込み、それぞれがドロドロに溶け合い凝縮した13曲37分。
サタニズムと悪ふざけで仕上げられた楽曲達は、猥雑で、冒涜的で、官能的で、何よりもむせ返るようなロックとしての魅力に満ち溢れており、80年代風の
サウンドプロダクションはそれらの魅力を生かすのに最高にマッチしている。メンバーがG.I.Z.M.や
Gastunkといったジャパニーズハードコアからの影響を公言しているようだが、特に日本人の耳には刺さりやすい音楽性かもしれない。来日にも期待したいところ。
1.Disillusion/The Liberation
圧倒的なドラマ性を有した
プログレッシブメタルであった1stアルバム、その成功を全て手放して
オルタナ化、というより異形化し、リスナーことごとくふるいにかけた衝撃の2ndアルバム、そこから13年である。
このアルバムが、これまでの全てを凝縮した作品であることは、オープナーのIn Waking Hours~Wintertideの溜息が出るほどに美しい流れで鮮烈に示される。鮮やかな静と動の
コントラストと滾るアグレッション。路線としては1stの作風に回帰した
プログレッシブ
デスメタルが基調となっているが、随所に2ndのシニカルな
オルタナ/インダストリアルのエッセンスも散りばめられている。アルバムは10分超えの長尺曲と短めの曲を交互に織り交ぜながら、表題曲であるThe Liberationでその高揚感は最高潮を迎える。
バンドメンバーも中心人物であるAndy Schmidtを除き1st及び2ndからのメンバーは全員入れ替わっているし、アルバムの製作資金も
クラウドファンディングで調達していたくらいで、リリースまでの道のりも順風満帆とは程遠いものであっただろう(確かサーバの故障だかでレコーディングしていたデータが吹っ飛んだという話もあったっけ)。そういった紆余曲折も踏まえると、より一層たまらないものがある。間違いなく本作こそが
Disillusionの最高傑作だろう。本当に、待った甲斐があった。
■次点
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Chelsea Wolfe/Birth of Violence
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Coffins/Beyond The Circular Demise
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Esoteric/A Pyrrhic Existence
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The Great Old Ones/COSMICISM
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Lingua Ignota/Caligula
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Saor/Forgotten Paths
- Soen/Lotus
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Stray From The Path/Internal Atomics
- Tomb Mold/Planetary Clairvoyance
- Yellow Eyes/Rare Field Ceiling
以上。例年通りメタルだらけになってしまった。
それでは、今年も良い音楽に巡り合えるよう祈りつつ。